1998年12月号(96号)

ついこの前までは暑い秋だと思っていたら、急に冬に向かって季節が動き出しました。近くの山々はもう雪化粧を始めています。

今年も今月を残すだけになりました。冬は小児科の活躍する季節だと分かってはいるのですが、それにしても忙しくなりました。「師走」とはよく言ったもので、私も看護婦も、文字どおり院内を走り回っています。

タイタニック引き上げ品展

先月、当地でタイタニック引き上げ品展が開催されました。ただ一人乗り合わせ、生還された日本人である細野氏の出身が上越市だという縁で、日本では三カ所でしか開催されない貴重な催しでした。

四千メートルの深海から大切に引き上げられた品々には、言葉では言い表せない重みがあります。

何より心ひかれたのは、バイオリンの演奏です。タイタニックが沈没する最後の瞬間までバイオリンを奏で続けたのは有名な話ですが、実はその演奏者の遺書に、自分が死んだらバイオリンの演奏で送って欲しいと書かれていたのだそうです。

彼はタイタニックに乗り合わせた多くの人のために最後まで演奏したけれど、誰も彼のために演奏した人はいない。だから、この引き上げ展の間は、彼のためにバイオリンをひいている。決してお客さんのためではない--そんなお話を、代表のマット・テイラー氏より直接お聞きしました。

財団の活動の主旨は、多くの遺品の引き上げだけではなく、悲劇に遭われた一人ひとりの隠されたストーリーを発掘し、記録することにあるということです。氏からは、バイオリニスト以外にも様々な感動的なドラマがあったこと、当時も時代を反映して強烈な人種差別があったことなども教えていただきました。

映画が面白くて、興味本位で引き上げ品展を見学したのですが、とても真摯な事業であることを痛感し、ただの「宝物さがし」と思っていた自分を恥じています。私にとって、今年の最大の心を洗われる出来事でした。

脳炎を予防するワクチンがあります

最近、インフルエンザについて勉強しなおす機会がありましたが、以前考えていたよりもっと深刻な病気であり、真剣に取り組むべきだという思いを強くしています。

スペイン風邪」の流行ときには、わずか半年ほどで地球上の約6億人が感染し、2,000万人以上が亡くなっています。昨シーズンは老人施設での流行が社会問題にもなりました。

子どもでも、脳炎・脳症といったとても重篤な合併症をきたすことが、決して少なくありません。(北海道での調査では、毎年10人前後の子どもが脳炎・脳症になり、その半数以上が死亡しています。全国では、毎年100〜200人ほどのインフルエンザ脳炎等による子どもの死亡が発生していると推測されています。)

ワクチン接種は、日本ではこれまで大切にされてきていませんが、脳炎等の重篤な合併症を予防する効果は十分にあると考えられています。

インフルエンザをただの風邪と考えずに、あらかじめワクチンで予防することをぜひお勧めします。例年1月下旬〜2月にかけて流行しますので、それまでにすませて下さい。

ウイルス性胃腸炎ではお腹を休ませて!

先月後半からウイルス性胃腸炎が流行してきました。吐いたり下痢したりするので、「吐きくだし」「嘔吐下痢症」などとも呼ばれています。

ついさっきまで何ともなかった子が、急にお腹を痛がって吐き始めます。1、2回吐いて終ることもあれば、何回も繰り返し嘔吐し、ぐったりしてくることもあります。

ここですぐに飲み物や食べ物を与えないことが大切です。この病気は胃の中がただれていて、物を受け付けないのですが、お腹をからっぽにして休ませてあげると、吐き気が治まってきます。

脱水が心配ですよね。でもご安心を。少しの時間は大丈夫です。例えば夜眠る前に何も水分をとらなくても、朝起きたときに点滴をしなくてはいけないような脱水状態にはなっていませんね。その間に汗をかいたり、おしっこを作ったりしていますが、半日程度の予備力は子どもにもあります。

吐いたあと、まだお腹をいたそうにしていたり、顔色が悪いようなら、何もとらせないで休ませてください。眠ってくれると、そのあいだは体もお腹も休まるので一番良いのです。

吐き気がおさまると顔色が良くなり、楽そうな様子になります。そうしたら、薄い番茶や麦茶のようなものを、ほんの一口ずつゆっくり飲ませてみて下さい。それで腹痛や嘔吐がないようなら、また次の一口、というように、症状を確かめながら、ゆっくり進めるのがこつです。

もし、半日ほど待っても嘔吐が止まらないときや、けいれんや意識障害などの重大な症状があれば、点滴治療などが必要ですので、すぐに受診して下さい。