2008年6月号(210号)   


 ときおり運動会や陸上競技会の歓声が聞こえてきます。

 子どもたちの元気な声には、こちらも元気をもらいます。

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今月の話題
 ●愚直に生きるということ
 ●セーフティー・ネット崩壊
 ●【子どもの救急】胸のトラブル(1)
 ●【院内検査】診察と検査の関係
 ●お知らせ
 ●感染症情報

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■愚直に生きるということ

 6月は当院にとっては特別な月です。医院を開業したのが平成2年(1990年)6月。そしてわたぼうし病児保育室を併設したのが平成13年(2001年)6月でした。

 上越という地域に根付き、子どもたちや親御さんたちのために小児医療の仕事をしてきました。開院当時受診していたお子さんが、もう成人して親となり、子どもを連れて来られることもあります。18年間、毎日診療をおこない、その積み重ねが少しずつ形になってきている、ということでしょうか。

 「愚直」という言葉が好きです。ある種のサボテンは数百年生きるのだそうです。その間に場所を動くわけでもなく、体を動かすわけでもない。雨にあたることもほとんどなく、水分や栄養も極端に少なく、灼熱の太陽に照らされ、ただただ立ち続けている。さて、いったい何のために生きているのだろう・・。きっと自分の生き方を忠実に生きているだけなのでしょう。

 私たち人間も、生まれ落ちた環境の中で、生まれ持った能力を使いながら、ひたすらに生きていきます。

 でも時には考えすぎたり、求めすぎたりして、自分の生きている意味を失うこともあります。そんな時、あのサボテンのように、ただ愚直に生きるのも大切なことかもしれません。

 流されたくないと思いながら、実はいつも流されている自分に自戒の念をこめて、もう一度「愚直」の意味を考えてみたいと思いました。


■セーフティー・ネット崩壊

 今、日本の医療は崩壊寸前だといわれています。医師不足、病院倒産、自己負担の増加・・。これまで受けることのできていた医療が受けられなくなってきています。

 医療だけではありません。介護や生活保護といった社会保障全体がガタガタになっています。健康に働くことができていればいいけれど、ひとたび病気などで働けなくなった時に命や生活を守ってくれるはずの「セーフティー・ネット」が、いつのまにかはずされようとしています。

 日本政府は財政難のために歳出を大幅に減らしています。医療や福祉などもその例外ではありません。2006年に打ち出された「骨太の方針」によって、社会保障費を5年間で1兆1千億円減らすことが決まりました(2007〜2011年度)。

 何が何でも年間2200億円ずつ削減するという政策が、とくに弱者といわれる人たちの生活を根底から崩し、生存していくことさえできない状況が生まれています。

 社会保障を充実させることは、近代社会のあるべき姿です。お金を持つ者はより豊かになり、持たざる者は取り残され、さらに貧しくなっていく・・そんな社会を、私たちは本当に望んでいるのでしょうか。

 財政を健全にすることは至上の課題です。無駄な支出を徹底しておさえ、社会保障などにきちんと振り向ける。それでも足りないことがはっきりすれば、その時に消費税を含めた税のあり方をみんなできちんと論議していきましょう。私たちの社会のあり方は、私たち自身が決めるものです。


■【子どもの救急(41)】胸のトラブル(1)

 胸部は大切な臓器が入っている場所。言うまでもなく、その一番は心臓で、全身に血液をおくる大血管も含まれています。呼吸をする肺も、胸郭という大きな「よろい」に守られています。

 心臓のトラブルがあれば、ときに命にかかわることになります。心筋梗塞はその最大のものでしょう。心筋に血液をおくる冠状動脈がつまり、酸素をおくれなくなります。強い胸部痛とともに動けなくなり、顔面は蒼白になり、冷や汗もかきます。命に関わる重篤な状態なので、すぐに救急車を呼び、救急病院に向かって下さい。心停止になっていれば蘇生術も必要です。

 心筋梗塞はほとんどは成人の病気。生活習慣病が基礎にあって、冠状動脈の病状が次第に進行して発症します。子どもでは過去に川崎病を患っている場合に、まれに遭遇することがあります。

 小児の心臓病でもっとも多いのは先天性心疾患。生まれつき心臓の形に異常があったり、大血管の付き方が正常ではないことによります。それらの大部分は出生児か乳児期に診断され、専門の治療を受けていることでしょう。

 胸を強打すると心臓が急に止まってしまうことがあります(心臓振とう)。野球のボールが胸に当たり、死亡するという不幸な事故もおきています。

 こんな時にはAED(自動体外式除細動器)を使うと心臓の拍動が元にもどるはずです。スポーツ大会などではあらかじめ用意しておくことが必要です。

 もちろん胸にボールが当たっても強い衝撃にならないように防護用具を着用すれば予防になります。自動車のエアバッグやシートベルトと同じように、今後普及してほしいと思います。

※AED(自動体外式除細動器)は公共施設、学校、体育館などで設置されています。ぜひ使い方の講習を受けて、いざという時に誰でも使えるようにしておいて下さい。


■【院内検査】診察と検査の関係

 院内ですぐにできる検査について、シリーズで紹介してきました。多くの検査を使って、その場で診断を確定したり、治療方針を決めたりすることができるようになってきました。ここ十年くらいで、検査技術は飛躍的に発達し、小児医療もずいぶんと変わってきています。そのスピードには驚かされるくらいです(ついて行くのがやっと?)。

 でも医療の基本が変わったわけではありません。お子さんや親御さんの話をしっかりとお聞きし、丁寧に診察し、そこに検査を必要に応じて加えていきます。「検査が先」ではありませんし、「検査が絶対」ということでもありません。

 さらに小児科では子どもに負担になるために検査がしにくいという事情もあります(診察すら十分にできないこともしばしばです)。また、変化が激しいのも小児科では普通のこと。時間をおって診察や検査を繰り返していく中で、しだいに病像がはっきりしてくることもあります。

 診察と検査は密接に関係して成り立っています。


■お知らせ

☆暑い日が多くなってきました。とくに日中、戸外で活動するときには帽子をかぶるなど、熱中症予防に十分注意をしていて下さい。

☆臨床心理士による「心の相談室」を開設しています。お子さんや親御さん自身についてご心配なことがあれば、どうぞご利用下さい。


■感染症情報

 先月(5月)は全体的には感染症の大きな流行はおきてはいませんでした。

 インフルエンザの発生が少ないながらも5月中旬まで続いていました。今冬の流行は例年より早く始まりましたが、完全な終息も例年より遅くなったことになります。

 ウイルス性胃腸炎(嘔吐下痢症)も冬場に多いのですが、インフルエンザと同様、春になっても流行が続いています。上越市内では集団発生したために休校の処置をとった小学校もありました。今しばらく注意が必要です。

 マイコプラズマ感染症の流行が続いています。気管支炎や肺炎をおこし、咳がとても強くなる特徴があります。内服による抗生物質が効きにくく、点滴治療が必要なケースが多発しています。

 同じく咳がとても強くなる感染症に百日咳がありますが、こちらもそうとう発生しているようです。乳児がかかると無呼吸発作を起こすこともあり、けっして軽い感染症ではありません。今年は成人での発生が増えているということです。吐くほどの強い咳込みがある場合にはすぐに受診をし、適切な治療を受けて下さい。

 溶連菌感染症も目立ちます。喉がとても痛いのが特徴。

 水ぼうそう(水痘)は少数ですが、発生しています。

 麻疹、風疹、おたふくかぜの発生は当院ではありませんでした。


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