塚田次郎著

新潟日報夕刊「晴雨計」(5)


小児科はやっぱりアナログ

(2004年12月2日)


 世の中はどんどんデジタル化しています。数字におきかえ、デジタルで表すことで、情報の取得や交換はスムーズになり、間違えも少なくなります。でも、医療の現場ではなかなか進んでいません。

 病気の診断や治療のためには、患者さんの病状を把握する必要があります。体温が何度で、咳(せき)や鼻水がいつからどれくらいか・・医者がいつもお聞きしていることですね。

 それをカルテに記載していきますが、書く中で患者さんの様子がだんだんと分かってきます。この作業はただ聞き取ってそれを文字にするだけではなく、同時に思考回路が働いています。

 最近は紙のカルテに変わって電子カルテも登場しました。でも、パソコンの画面を見ながらキーボードで入力していくことがどうもしっくりときません。紙のカルテが捨てきれないのです。

 とくに小児科ではそうかもしれません。「何となく具合が悪い」「どこかいつもと違う」「今日はとてもつらそうだから、大きな病気かもしれない」といった、医者としての勘(かん)がけっこう大切なんです。小さな子どもたちは症状を話してくれませんし、親御さんからも情報があまり得られないこともあります。やはり子どもの様子をしっかり見ることが診療の基本です。

 ついでにお話をしておくと、小児科ではついてこられる大人(多くはお母さん)の様子も一緒に見ています。とても心配そうにしていたり、夜あまり眠れないで疲れているようであれば、子どもの具合がよっぽど悪かったのかもしれません。お話を交わす中で親御さんの理解度も分かりますので、病気や治療についてどのように話すべきがも考えています。こういった文字で表すことができない情報は、実はとてもたくさんあり、かえって重要であったりもします。

 そもそも私たちが相手にしている子どもたちは、アナログ思考が得意です。生まれてまもない赤ちゃんも、大人の笑う顔や声に笑顔で反応します。生後半年をすぎると、いつも一緒にいるお母さんの顔を区別して分かるようにもなります(人見知りの始まり)。これらは高性能のコンピューターでもなかなかできないこと。それを赤ちゃんは生まれながらにしてやってしまうのですから、すごいことです。

 でも、電子カルテの優れているところもあります。それは、誰にでも読めること。医者の悪筆は古今東西を通して有名です。私もそう。ときには自分でも読めない字が並んでいるなんてことは、デジタル化されたカルテではないでしょう。反省しきりです。

このページの
トップへ

目次の
ページへ

このホームページ
のトップへ