塚田次郎著

新潟日報夕刊「晴雨計」(9)


インフルエンザ・パニック

(2005年1月13日)


 1996年のクリスマス・イブの日を、今でも忘れられません。月曜日のこの日、朝から予約の電話が鳴り続き、八時すぎには待合室がいっぱいに。いやな予感がして早めに診療を始めましたが、それは長い一日の始まりでした。

 受診する子どもたちの大半は、突然の高熱、寒気、だるさなど、とても具合が悪そう。そう、インフルエンザの大流行です。

 インフルエンザの診療はここ数年でとても変わりました。積極的にワクチンで予防しようというのも最近のこと。今シーズンは日本中でおよそ4,000万人分のワクチンが作られ、国民の四割は予防接種を受けていることになります。検査薬もできました。診察中に結果がすぐわかるので、インフルエンザかどうか、確実に知ることができます。そして、何よりも治療薬ができました。この「特効薬」のおかげで、重症にならないうちに早く治すことができるようになりました。

 しかし、当時はまだこれらの「武器」がありません。みなが判で押したように同じ症状なので診断は簡単ですが、対応には苦慮しました。午前の外来が午後2時すぎまでかかり、わずかの休憩ののち午後の診療を継続。すべてが終了したのは夜7時を回っていました。

 私も含めて職員は疲労こんばい。医者が一人の診療所では、能力の限界を超えていました。しかし、むしろ患者さんこそ大変だったことでしょう。具合の悪い中で、長い時間待たなければいけなかったのですから。

 インフルエンザは、規模の違いはあっても必ず毎年流行します。従来のA香港型、Aソ連型、そしてB型の三つだけでも大きな流行を繰り返しています。もし新型が発生したら、日本では二千五百万人以上がかかるとされていて、その規模と被害は想像を絶するものがあります。

 8年ほど前のこの日、インフルエンザ対策は国家的な危機管理そのものだいうことを身をもって知りました。ワクチン、検査、治療薬、そして流行情報の伝達という4つの「武器」を駆使し、可能な限りの対策を綿密にたてておかなければ、大流行に対応できません。

 ちなみに、この日の患者数は480人。イブの日に悪夢を見たかのようです。

 例年は1月中旬からインフルエンザの流行が始まります。そろそろ心配なころ。備えは万全ですか? くれぐれもご用心を!

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