塚田次郎著

「なぜ医薬分業から院内処方に「逆転換」したのか
−−患者に優しい投薬の実現のために−−

(1998年2月)


日本看護協会「Nursing Today 98年2月号」FEATURE 欄へ寄稿

今、医療機関は競うようにして医薬分業を進めているが、患者のために役立ち、患者を幸せにしているのだろうか。当院の経験から医薬分業の問題点を指摘し、むしろ院内で責任をもって患者に薬を渡すことが大切であることを強調したい。

1.医薬分業から院内処方へ

当院は1990年(平成2年)、処方箋を発行し、それを「門前薬局」が一手に引き受けるという医薬分業で開業した。院内処方では技術料としての診療報酬点数は極めて低く、小児科で使用する薬は散剤や水薬が大半であるため、手間と費用がかかる。「薬のことは調剤薬局にまかせる」ことで、診療所をスタートさせたのである。

両者が共に小児医療を担うために、十分な連携を持ったほうが良いと考え、各種の勉強会をするなど、努力してきた。

しかし数年が過ぎ、薬局がチェーン展開してから、薬剤師や事務員の勤務交代が頻繁になり、互いのスタッフが相手の様子も知らずに仕事をするようになってきた。患者から薬についてのクレームがでても、医院側からは責任をもって対処することができなかった。また、外用薬のラベルを剥がさずにおくことや、小児が誤飲しないような投薬瓶への変更といった要望も、聞き入れてもらえなかった。

このまま院外処方を続けていていいのか、ずいぶんと迷ったが、患者さんのための医療をしようという基本に立ち返った時、残された選択枝は「院内処方への逆転換」であった。

2.院内処方のメリット

一昨年9月に院内処方に変更してから最も強く感じたことは、患者さんの利便性が格段に高まったことである。窓口での会計も1回ですみ、そのまま待っていれば薬ももらえる。小児科では、具合の悪い子を抱えての移動は、実に大変である。同じ場所で待っていられるということは、患者に優しい医療の実践そのものである。院内では看護婦の目が届くので、容態の悪い患者さんがいれば、その場で的確に対処できる。

院内処方がさらに実あるものになるよう、多くの工夫や努力をした。

まず、薬の名前などを積極的に知ってもらうようにした。錠剤やカプセルはシートに、例えば「ケフラール/抗生剤」と記載したシールを貼り、服用のたびに薬の名前や主な効果などが目に触れ、納得しながら服用できるようにした。水剤や外用剤も同様のシールをはり、散剤では分包紙の一つひとつに同じ内容の印字をしている。薬剤情報の提供について、こういったきめ細かいサービスができたのも、院内処方ならではのことである。

また、当院での投薬業務は全て、カルテを見て確認しながら進めている。これにより、薬剤師が患者の病名や治療の目的、病気の経過などを知りながら患者に服薬指導できる。医薬分業では、処方箋には病名や処方目的などは書かれていないため、適切な指導ができるのだろうか。看護婦が、患者についての十分な情報がなくては適切な看護業務ができないのと同じである。

薬剤師が得た情報は、その場で医師に直接伝えたり、カルテに記載している。小児科では、薬について気を配っておかなければならないことが多いが、薬剤師からの情報により診療の質は向上した。

医師と薬剤師が綿密な連携をとり、一人ひとりの患者と一つひとつの処方について、互いの情報交換をしながら投薬業務を進めるためには、同じ施設の中にいるほうが良い。医薬分業にすると病医院経営が楽になる、待合室の混雑がなくなる、設備・施設・スタッフに余裕ができるなどとされているが、いずれも医療機関の利点である。患者にとっては、「かかりつけ薬局」による調剤であれば、薬の重複チェックなどが行えるというメリットがあるが、しかし、日本の処方箋の80%以上は門前薬局に流れているのが現状である。

院内処方のデメリットは医院の経営上の困難さが増したことであり、患者側のデメリットは全くないと考えている。

3.院内・外処方の点数格差

日本の医薬分業推進の政策が、経営的な誘導によって行われてきたため、院内・外処方の技術料の体系が大きく歪んでしまっている。院内処方では、どんな大病院で、どんな優秀な薬剤師が服薬指導をしても、この例のように技術料は正当に評価されない。

医療費は当然、医薬分業のほうが多くかかる。試算では、1回の受診について小児では約2,000円、老人では約3,000円高い。窓口での負担も多くなっていて、当院が院内処方に変更したとき、支払額がずいぶん安くなったという声を多く耳にした。

もちろん、できれば調剤薬局と同じ程度に評価されるべきだが、それでも、同じ施設の中での業務であり、限られた人的・施設設備的資源を有効に使え、その分だけでも医療費の節減になるのではないだろうか。

4.患者のための投薬を

外来の患者に対し、その受付の段階から始まり、診察、処置、投薬、会計といった一連の行為が、全体の統一性をもち、責任ある応対ができなければ、良い医療とはいえない。特に内科系の診療科にとっては、薬は診療の大切な「武器」である。いかに良い医療を追及し、実現していくかという観点から、日本の医薬分業のあり方を再点検すべき時である。

このまま病医院の経営上の都合だけで医薬分業が進んでいくことに、大きな危惧を覚える。そこに、患者を考える立場は見えてこない。主人公である患者が置き去りにされているのではないだろうか。

当院で経験したことは、決して特殊なケースではない。医療の中で、患者の立場に立ち、「患者に優しい投薬」とは何かを真剣に考えてほしいと願っている。

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