蜂刺されの対処

(前略)蜂に刺されたとき、どの科にかかればよいのかわからないときには誰に聞くと良いのでしょう? ついでにハチに刺されたときにしなければならないことも教えていただければ嬉しいです。 (東京・Mさん)

お子さんの蜂刺されをめぐっては、ずいぶんご苦労をしたとのこと、同じ医療に携わるものとして、恥ずかしい限りです。日本は救急の対応など、きちんと出来ていない部分が多くあります。

何科がいいのか・・ですが、確かに必ずしもはっきりとは決まっていません。子どもであれば小児科、大人であれば内科がまず関係します。皮膚の問題だと考えれば皮膚科でもいいでしょう。重症で全身管理が必要になるときは外科も関係します(軽症でも外科でも診ます)。やや特殊ですが、アレルギーの反応が関係しているようならアレルギー科もあります。大きな病院などで、いくつもの科が診療している場合には、どこに行けばいいのか、本当に迷うことが少なくないことでしょう。

でも、子供さんならまず小児科で診てもらうのが一般的かと思います。小児科は、いわば何でも屋。とりあえず子どもなら小児科・・と考えていただいて結構です。

あらゆる診療科の中で、年齢で区切っているのは小児科だけです。小児科の特性として、子どもなら、とりあえずは何でも診るよ、という姿勢です。その中で、特殊なものや重症で専門的な治療が必要なときは、他の科にお願いしています。その時も、小児科が「窓口」となっています。ということで、「困ったときは小児科」というように考えていて下さい。

今回の件は、時間外の診療(救急)という側面もあります。どうしても時間外の診療については手薄になりますので、他の科のこともお互いにカバーしながら診療しています。最初から特殊・特別な治療が必要な時以外は、当直医などが幅広く対応する事になっています。(といっても、建前上は当直医は入院中の患者さんのためにいるので、「救急外来」を開いているところ以外は、忙しさのために十分対応できないこともあります。)その意味では、当直医が何科であっても、一定のレベルまでは対応してくれることを期待しています。(この先は、その医師や病院の診療方針などが対応を左右します。)

さて、蜂刺されの対処ですが、その場の様子がどうかで決まってきます。一番怖いのはショック症状がないかどうか、です。アレルギー症状のうちで、全身的に重症な問題がおきるものをアナフィラキシーと呼んでいます。ショック症状はこのアナフィラキシーの主な症状で、血圧低下、意識消失などをおこし、もっとも重症な経過では死亡することもあります。顔面蒼白、冷汗、立ちくらみ、全身の蕁麻疹、口やのどの中のかゆみなどが、その最初の症状です。

こういった「とにかく具合が悪い」といった様子が見られたら、一大事です。その場で横にし、衣服をゆるめ、手足をあげて血液が頭や内蔵に集まるようにします。その上で、救急車を呼んで下さい。

このアナフィラキシーは、刺されてから短時間におきます。数分〜十数分というところでしょうか。(蜂刺されに限らず、予防注射の時や、何かの薬を使用した時も同じことがおきる可能性があります。その時に直ちに、かつ的確に対処すれば救命できますので、予防接種のときには少なくとも15分程度は院内で休んでいてもらっています。)

その時間を過ぎてからおきることは通常はありません。その場で「具合が悪い」ということがなければ、あわてて受診したり、救急車を呼んだりする必要はありません。

そのほかで問題になるのは、局所の反応だけです。つまり刺された場所が腫れて、痛かったり、熱をもったり、痒かったりするだけです。とくに子どもでは、痛みのために大泣きをしているかもしれませんが、急いで対処することはさほど必要ありません。蜂に刺されたあと、もし針が残っていれば抜いて下さい。その後は、冷やすか、虫さされの薬を塗って下さい。

外用薬は主に2種類使います。
1.抗ヒスタミン剤:かゆみをとめる働き。代表はレスタミン軟膏
2.ステロイド剤:炎症をおさえる働き。リンデロンなど、いろんな薬があります。
これらが手元にあれば、それを使って良いです。市販の薬でもけっこうです(ムヒなど)。

内服も使うことがあります。
1.抗ヒスタミン剤:かゆみや腫れを抑える薬。テルギンG、レスタミン、ペリアクチンなど・・。これらは、湿疹のかゆみ止めとしても使いますし、鼻水を抑える薬として風邪薬の中のもよく入っています。
2.鎮痛剤:痛み止め。カロナールなど。熱冷ましの薬は、同時に鎮痛作用もあるの
で、臨時に使ってかまいません。
とりあえず、このような薬が手元にあれば、それを使ってかまいません(鼻水と熱冷ましの入っている風邪薬があれば、最高ですね!)。

蜂刺されのお子さんもときどき外来にこられますが、診察のときにはすでに数十分たっているときが多くて、だいたいは全身的な問題はもう心配ない時間になっています。そのため、ちょっと薬をだして、終わりになっています(以上のようなお話がメインです)。

蜂刺されからショック症状に陥ることはまれですので、ほとんどの場合は、緊急性はありません。とにかくその場の様子をみて、判断していただいて結構です。万一ショック症状が疑われるときは、救急車を呼んでいただければ、救急隊はそれなりの対応をしてくれるはずです。搬送先の病院では、科に関わらず対応するでしょう。

問題は、山の中など、容易には受診できない場合です。職業的に山の中で仕事をする人は、自分たちで対処できるようになっていると良いのですが、日本ではどうでしょう。以前、アメリカやカナダでの例を聞いたことがありますが、森林隊などは自分で注射できるキットを常備しているということでした。アドレナリン(ボスミン)がその薬で、血管を収縮させ、心臓の力を強める働きがあります。ショックに陥りそうだと「自分で」判断し、その場で直ちに「自分で」注射をします。その場で、1分を争っての対応が必要なので、他人をあてにはできないということです。さすがだな、と感心しながら聞いたことを、今でもよく覚えています。

ちなみに、私が子ども達のキャンプなどに引率して山に行くときには、この薬や点滴などを用意して行くことにしています。幸い、まだそのお世話になったことはありませんが・・

PS
以前、アンモニアをつけるという治療法(?)があったようですが、今はしていません。アンモニアで毒を中和しようということなのでしょうが、皮膚から吸収されることはありませんし、効果はありません。かえって皮膚を痛めることがあります。まだ一部の本には書いてあるようです。

キーワード:蜂刺され

2000.11.3

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塚田こども医院Q&A2000年11月