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2006年04月07日

たった一人の小児科医

 私が住む新潟県上越市には小児科のある病院が3つあります。その一つが先日、移転新築しました。これまでよりも診療科が増え、ベッド数も大幅に増えて、より大きな病院として生まれ変わりました。

 この病院の小児科は、これまでは常勤が一人だったのですが、これからは3人になり、よりしっかりとした体制で小児科診療ができるようになりました。嬉しいことです。でも、ちょっと困ったこともおきています・・

 上越市というのは、昔は高田市と直江津市という二つの市が合併してできました(昨年はさらに周辺の14市町村が合併してもっと大きな市になっています)。高田は平野部の真ん中で文化や商業のさかんなところ。直江津は港や交通の要所として、流通などで栄えてきたところ。市街地の広域化の中で、その区別はだんだんとなくなってはきているのですが、それでもまだ「高田地区」と「直江津地区」は、生活圏としては若干の区別があるようです。

 くだんの病院は長らく直江津の真ん中にあったのですが、敷地が狭く、建物が古くなったということで移転しました。昔の行政区分では、旧高田市になるところへです。患者さんにとっては、生活圏から移転することは、やはり負担が大きくなります。自家用車で通える人たちはいいですが、徒歩で通院されているお年寄りなどは、やはり通いづらくなってしまいます。(このあたりのフォローをきちんとしているのか、心配しています。)

 小児科は医者が増えたことは良いのですが、やはり通いづらくなったという声を親御さんから聞きます。若い人たちはほとんど車で通院しているはずなのでが、それでもやはり通うのは大変になったようです。

 当院は上越市の海岸より・・つまり直江津にあります。その直江津から小児科が一つなくなったということで、患者さんの受診の様子が少し変化してきているような気がしています。

 私が開業した1990年当時は、直江津には小児科医のいる病院が2つ、小児科開業医が他にもう1軒ありました。その後、開業の先生はご高齢のためにおやめになり、一つの病院は小児科の常勤医師が不在になってしまいました(現在は週2回、大学からの出張医で外来のみを行っていますが、それも5月で終わるそうです)。もう一つも、病院そのものが移転してしまったので、今では直江津地区で小児科医は私一人になってしまいました。

 直江津地区の人口は約7万人。小児人口を15%とすると、この地域の子どもたちはおよそ1万人以上いることになります。そんな中で小児科医が一人だけというのは、十分な小児医療の体制を作るのが厳しい状況です。

 私もできる限りのことはしていきます。そしてしなくてはいけないことも、まだまだいっぱいあります。でも、どれくらいのことができるだろうかと考えると、ふと心配になります。やはり一人の小児科医、一つの小児科医院だけでは、限界があります。

 今、小児科医療が危機に瀕していると指摘されています。いつでも、どこでも、心配なときにはすぐに受診できる体制が求められているにもかかわらず、現実は小児科医と小児科の不足のため、基本的な小児科診療そのものが成り立たなくなりつつあります。

 子育て支援については、最近は理解が深まるようになりました。そのための施策もいろいろと打ち出されています(実効が伴うかどうかは分かりませんが)。でも、小児医療の体制づくりについてはどうでしょうか?

 子どもたちを大切にしたいと願っている小児科医が、実は自分自身の健康を害しながらやっと仕事をしているような状況が、日本中でおきています。どうすればいいのか、ぜひいっしょに考えてみていただけないでしょうか。

投稿者 tsukada : 2006年04月07日 21:17

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