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2006年05月24日
小児救急と電話相談
小児救急の話の続きです。昨日見たローカルテレビで、小児科医がいかに大変かということをレポートしていました。新潟市民病院が取り上げられていましたが、話の本題に入る前に、ここは私が臨床研修をさせていただいたところ。医学部を卒業してすぐの2年間、内科全般と小児科をローテーションしながら実地に勉強しました。そして、私が小児科医になると決め、私を一人前にすべく指導して下さったところです。25年ほど前になります。
研修が終わったあともつながりを持っていますので、昨日は懐かしい先生方をお見かけすることができました。当時も大変な勤務状態でしたが、今はそれよりももっと厳しい中で仕事をされていることをしりました。画面に映し出されたお顔がとても疲れているように見えたのですが・・。
新潟市民病院では小児科医が必ず一名当直をしています。県内でもっとも大きな新生児集中治療室があり、一般の小児科病棟もあるので、入院している子どもたちのためには小児科医の当直は必ず必要です。とくに未熟児で具合が悪いときには一睡もせずに処置をするときもあります。それに加えて、間断なくやってくる小児の救急患者の診療をしなくてはいけないので、事態は深刻です。少数の重症患者が来るのであれば対応はできるでしょうが(それも大変ですが)、問題は軽症の患者さんです。
昨日のブログに書きましたが、新潟市には一時救急をするための専門の施設があります。しかし、それを利用せずに直接市民病院にやってくる小児救急患者もそうとう多くいるとのこと。その対応に多くの労力をとられていて、本来必要な救急医療などがおろそかになりかねません。ぎりぎりのところで持ちこたえているのは、小児科医の犠牲的な努力があるからにほかなりません。
テレビを見ていて、これでは小児科医は大変だ!と思ったことがあります。それは、病院にかかってきた電話に小児科医が直接出て話をしているというのです。親御さんからの問い合わせに小児科医がお答えするという意味合いでは良いことかもしれませんが、受ける方の当直医の負担ははかりしれません。
番組の中で小児科医が話をしていましたが、軽症だと思われるときに、その旨を伝えて分かってくれる時はいいのだけれど、時には親御さんと「どうして診てくれないんだ」と押し問答になってしまうこともあるそうです。そういったトラブルに巻き込まれてしまうのは、本来の業務だけでも大変な状況の医師にとってとても可哀想です。
私も同じような経験があります。トラブルになるのは一部の方だけですが、やはり「医者は時間外でも診るのが当然」と言った態度を取る方もいます。お話をお聞きして、とりあえずの対処方法などをお話しても、なかなか納得してくれないときがあります。親御さんにとってはこちらの状況が見えるわけでもありませんし、お子さんのことを心配される気持ちも分かります。でも、医師のアドバイスを聞いて、冷静に対処しようというのではなく、とにかく診てほしいという気持ちが先にたち、うまくかみ合わないこともあります。
時間外の診療は、実はあまり良い医療は提供できません。私が行うとしたら、カルテの準備はとりあえず自分でするとして、診察の介助につく職員はいません。検査、処置、点滴なども、必要とあれば私一人で行うことになります。投薬も、普段使わない機械を使いながら、私が作ります。会計はできません。そんな中での医療行為は、通常の診療時間に行うものからすると格段に劣ります。正確さに欠けたり、十分なことができなかったりしますし、一人で全てのことを行うために、極端に時間がかかり、効率が落ちます。休憩すべき時間帯に行うわけですから、それが翌日以降の診療に影響してこないとも限りません(私ももう歳をとってきましたし)。
そういった悪条件の中でも時間外の診療が必要な子どももいるのは確かですが、でも実際にはそれほど多くはないのではないか、とも思っています。子どもが夜や休日などに急に病気になったり、何かの症状が出たりすることはしょっちゅうですが、その中の多くは適切な家庭看護をしていただければ、翌日以降の普通の受診で十分に対応できるものなのではないかと推測しています。
話を元に戻しますが、時間外の診療を求めてかけてくる親御さんからの電話に、当直の小児科医が全て対応しているという話が、私には信じがたい事実です。それでは小児科医の疲労をさらにひどくさせてしまうだけです。子育てや小児科看護に十分経験のある看護師などの専門の職員を配置し、電話での問い合わせに対応するという体制をつくることで、小児科医も救われますが、おそらく親御さんも助かると思います。忙しい小児科医が、バタバタしている中で話をするのとは違って、ゆとりをもって話を聞いてくれるし、実際にどうすればいいか、よく教えてくれるはずだからです(小児科医は病気については詳しいですが、家庭での看護にも詳しいというわけではありません)。もしその電話相談の中で重症だと思われるケースは、小児科医に再相談したり、受診を指示したりすることが可能です。そうすれば、本来の救急体制も機能しやすくなるでしょう。
当院では今年2月から「時間外電話相談」を行っています。それまでは必要なことがあれば院長の携帯電話へどうぞと案内していましたので、私が時間外に親御さんと直接話をすることが多くありました。今では電話相談が十分機能しているようで、親御さんからも歓迎されているようです。利用数も当初の見込み以上になり、4月には月に150件ほどでした(1日平均5件ほど)。
個人開業医が行っているだけでこれだけの利用があるのですから、大きな病院や、地域全体で行えばそうとう多くの利用があることでしょう。それによって、親御さんの子育てに関わる(とくに病気についての)負担が少なくなるはずですし、人数が少ない中でオーバーワークになっている小児科医の負担も多少は少なくなっていくのではないか、とも思います。
小児救急の問題・・少し糸口が見えてくるといいですね。
投稿者 tsukada : 2006年05月24日 21:18