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2006年05月25日

今日も小児救急の問題を考えます

 小児救急が大きな問題になっていますが、いろんな現象がごっちゃまぜになっているので、混沌として先が見えない状態になっています。もちろん一つの対策だけですべてが解決することはありえず、いろんな方面で、様々な対応が必要になっていきます。

 「群盲 像をなでる」という言い方があります。目の不自由な人たちが像に初めて触れて、耳を触った人は「平べったい生き物だ」と言い、しっぽをなでた人は「細くて長い」といい、お腹をさわった人は「とても大きくて丸い」と言ったとか。それぞれの見方が間違っているわけではないけれど、一部をもって全体を推し量ることはできないという意味合いのエピソードです。「木を見て森を見ず」というのも同じことでしょう。

 小児救急が抱えている問題も、さまざまな面があり、それぞれについて良く見極めていかなければいけないと同時に、小児医療や子育て支援という大きな枠組みでも考えてみないといけないと思っています。

 気になることを一つお話します。子どもの時間外診療が多くなってきたのは「おばあちゃんの知恵がなくなったから」だという意見です。昔は大家族で、子育ての先輩である祖父母がいて、子どもの急病の時などに適切なアドバイスをしてくれた。だから若夫婦が冷静に対応できた。今は核家族が多く、いざというときに相談できる人がまわりにいない。だから時間外でも小児科を受診するようになる・・と。

 確かにそんな面もあります。とくに「相談できる人」はぜひ必要です。いつでも連絡がとれ、子どもの急病についても適切に対応してくれる人がいれば、子育てに困難さを感じることも確実に少なくなるでしょう。そんな意味合いで、当院独自に「時間外電話相談」を開始し、当院の患者さんだけが対象ではありますが、けっこう利用していただいています。

 でも、以前からそんな人がいたのでしょうか。祖父母がいたから、ちゃんと相談でき、子どもの急病にもきちんと対応できた、なんてことがどれくらいあったのでしょう。私自身はそんな大家族での生活の経験がないので、自分の感触でものを言ってはいけないのかもしれませんが、どうもしっくりきません。

 今でもそうです。親御さんがしっかりと子どものことを考えているのにもかかわらず、同居している他の人たち(その中には祖父母も入ります)がかえって混乱させるようなことを言っているというケースも、けっして少なくないように思います。「おじいちゃんが心配しているから受診にきた」「おばあちゃんが行ってこいと言っているから・・」などという言葉は、外来で良く聞かれます。それらの中には「適切なアドバイス」も含まれていますが、そうではない「不適切なアドバイス」もそうとうあるように感じています。

 子どもの病気で、時間外の診療が多くなるのは、親御さんが心配に思う気持ちが強くなっていることが大きいのではないかと思います。それを助長しているのが、「もしものことがあったらどうするの?」といった周囲のプレッシャーかもしれません。あるいは、医者の口癖に「こんなになるまでどうして連れてこなかったんだ」というようなものもあります(私自身は言わないように心がけていますが)。それって医者自身の責任を最初から放棄したり、限定的にしようという気持ちが働いているんだと思っていますが、そんなことを言われないためには、何かあったらすぐに連れて行くしかありません。(でもそうすると、まだ連れてくるほどではない、とも言われかねません。どちらに転んでも、医者は文句を言い、患者さんに対する責任を引き受けようとはしない存在なのです。)

 お互いに責任をなすりあっても仕方ありません。大切なことは、これからどのようにしていくか、どんなふうにすることができるか、前向きの議論をすること。そんな意味で、当院が行っている専任スタッフによる「時間外電話相談」の事業は、小児救急の問題を解決しうる一つの、そして大きな手段になるような予感がしています。

投稿者 tsukada : 2006年05月25日 22:05