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2006年06月28日

年長さんも麻疹・風疹混合ワクチンを

 予防接種の方法がまた変わりました。今年4月から麻疹と風疹が混合ワクチンになり、さらに1歳で1期、小学校入学前1年間(保育園・幼稚園の“年長さん”にあたります)で2期と、2回接種することになっていました。しかし、当初はこの2期の接種は、1期で混合ワクチンを受けた子どもだけが対象だとする“しばり”があったため、実質上は当面は2期接種は行われていませんでした。

 しかし、それに対しての批判がとても強く、国は当初の方針を撤回しました。「但し書き」の中にあった制限を廃止し、以前、麻疹や風疹を単独ワクチンで受けた子どもに対しても、2期の混合ワクチンを接種できるようにしました。6月2日付けで各都道府県に通知が出され、現在全国に市町村や区でその対応を進めています。

 当地(新潟県上越市)では7月1日から実施するとする旨の文書が、今日市役所から届きました。さっそく院内の掲示、各種パンフレットを訂正しましたし、このHP内の該当箇所も訂正をすませました。他の自治体も、ほとんど同様の動きをしていると思います。

 以前は麻疹も風疹も1回のワクチン接種で十分とされ、日本ではずっとその方法をとっていました。しかし、ワクチンの効果は100%ではありません(98%以上の効果があるとされていますが、逆に言えば100人中1〜2人は最初から免疫がついていないことになります。これを「一次的なワクチン不全」と呼びます)。

 また、ワクチンによって得られる免疫の程度はその感染症に罹患して作られる免疫よりも弱く、一生の免疫ではないことも分かっています。麻疹や風疹の流行があると、その際に病気にはならないけれど免疫の程度が罹患したのと同じくらい強くなる現象(ブースター効果)もあります。しかし、最近はこれらの感染症の流行があまりおきなくなり、自然のブースター効果が期待できなくなっています。ワクチンによりいったんできた免疫が弱くなり、その感染症にかかるおそれがあるケースも増えています(「二次的なワクチン不全」と呼びます)。

 せっかくワクチンを受けたのにあとでかかってしまうという事態を防ぐために、もう一度同じワクチンを接種し、弱くなりかけた免疫を増強する必要があります。この2回目のワクチンによってできる免疫増強の現象もブースター効果と呼ばれています。

 話はやっかいになってきましたが、要するに1回だけではまだ足りず、もう一度受けたほうが良いということなのです。欧米ではそうとう前から「2回法」が普通です。それによって徹底して麻疹などの感染症を社会からなくしてしまおうという戦略をとってきました。日本では年間数万人の麻疹患者が発生しているというのに(昨年は数千人に減ってきたそうですが)、アメリカでは年間の患者発生は数十人にすんでいます。そしてその半数ほどは日本をはじめとしたアジアの諸国から持ち込まれたウイルスだということも分かっています。

 そんなことが背景にあって、日本も「2回法」を採用したはずなのに、何故か「但し書き」が作られ、実際の実施が先延ばしされてしまったという経過は先にお話しした通りです。さすが日本の役所です。仏を作って魂入れず。形は整えるけれど、一日も早く、そして一人でも多くの子どもたちを助けよう、などという気持ちは感じられません。それよりも、何か事故があったら大変、マスコミや「反ワクチン勢力」にたたかれないようにするにはどうすればいいか・・そんなことが頭をかすめていたのではないか、などとヘンな想像をしてしまいます。

 日本中のほとんどの小児科医があきれかえり、批判したことで、厚生労働省も動きました。実施から2か月ほどでの改定ですので、お役人的にはずいぶん早い対応だったのでしょう。その点は良しをしたいと思います。

 これから年長さんへの麻疹・風疹混合ワクチンの接種が始まります。該当するお子さんのもとへは個々に通知も行くことでしょう。お子さんの体調の良いときに、かかりつけの小児科の先生から予防接種をしてもらって下さい。

 なお、今の年長さんが麻疹・風疹混合ワクチンを受けられるのは今年度いっぱいです。つまり来年3月末日まで。まだ9か月ほどもあると思っていて、いつもまにか忘れてしまった、などということにならないように。それに、秋からはインフルエンザ予防接種(任意接種ですが、受けていただくよう小児科医としてお勧めしています)もありますし、冬場は風邪などにかかりやすいなど、体調をくずしてしまうこともありがちです。秋くらいまでの間に接種をすませておくといいでしょう。

投稿者 tsukada : 2006年06月28日 21:32