« ウイルス性胃腸炎は一段落 | メイン | ホワイトカラー・エグゼンプションについて »

2007年01月06日

残業代ゼロが少子化対策!?

 今、一部のサラリーマンの残業代をゼロにしようという制度の導入が議論されています。アメリカなどですでに実施されている「ホワイトカラー・エグゼンプション」というのがそれです。

 ホワイトカラーとは、白い襟のこと(カラーは襟=collarで、色=colorではありません)。白いワイシャツにネクタイをしめているような、いわゆる会社員という意味合いがあります(知的労働)。ちなみにホワイトカラーではない人たちは「ブルーカラー」と呼ばれ、青い作業服を着ている人たちで、単純労働をしています。

 ブルーカラーと呼ばれる労働者は、主に働く時間によって賃金が決まります。基本の労働時間を上回る時間外労働があれば、その時間によって割増賃金が支払われます。それに対してホワイトカラーは、基本的には労働時間は関係なく賃金が決まります。「年俸制」というのはその一つ。ブルーカラーに相当する時間外手当はありません。

 日本はこれまではブルーカラーと同じ制度しかありませんでした。労働者は労働時間などの労働条件は法律で決められ、時間外手当の支給も全ての労働者が対象になっています。(実際には支給すべき時間外手当を支給しないサービス残業も横行していますし、労働者の過労死も大きな社会問題になっています。)

 経営者側からの提案で、日本でもアメリカと同じような制度を導入しようというのが議論になっています。ホワイトカラーと呼ばれる人たちは、自分の労働時間は働き方を自分で決めて、経営者はその人の業績をもとに賃金を支払おうというものです。

 この制度については、さっそく労働者側から猛反対の意見が出されています。今でも残業代がきちんと支払われていないのに、これではまるまる労働者のただ働きになるのではないか。勤務時間などを法律で決めないわけですから、過労死は減るどころか、ますます増えてしまうのではないか。私自身も、この制度が今の日本では、有害な側面があまりに多いと思っています。(詳しくはまた別のときに触れてみたいと思います。)

 今日、お話をしたいのは、安部首相の発言です。この制度が導入は「少子化対策にもなる」と言ったというのです。朝日新聞は次のように伝えています。

<安倍首相は5日、一定条件下で会社員の残業代をゼロにする「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入について「日本人は少し働き過ぎじゃないかという感じを持っている方も多いのではないか」と述べ、労働時間短縮につながるとの見方を示した。さらに「(労働時間短縮の結果で増えることになる)家で過ごす時間は、例えば少子化(対策)にとっても必要。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を見直していくべきだ」とも述べ、出生率増加にも役立つという考えを示した。首相官邸で記者団の質問に答えた。/首相は「家で家族そろって食卓を囲む時間はもっと必要ではないかと思う」と指摘。長く働くほど残業手当がもらえる仕組みを変えれば、労働者が働く時間を弾力的に決められ、結果として家で過ごす時間も増えると解釈しているようだ。>

 日本人が働きすぎだというのは、確かにそうかもしれません。でもそれは平均的なことで、実はアメリカやヨーロッパの一部の人たちはもっと労働時間が長いのです。それがホワイトカラーと呼ばれ、主に年俸制で働いている人たちです。「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入することが、労働時間の短縮になるという根拠は、ありません。

 また、時間外手当がでる今の制度があるから、職場にいつまでも残っていて、なかなか家庭に帰らない、という意味合いにも聞こえてくる発言です。そんなことが言えるのは、普通に働いたことがないのでしょうね。まるで、帰れるのに帰らない労働者が悪いみたいな言い方。一生懸命働いている人たちが聞いたら、怒り出しますよ。

 日本が世界で類をみないほどの少子化社会になっていて、「少子化対策」は国家的な大きな課題です。ですが、それを「ホワイトカラー・エグゼンプション」と結びつけるのは、あまりに安直であり、物事を深く考えていないのだな、と思ってしまいます。

 労働時間が長く、家庭で過ごす時間が短い・・それが一般的に、家庭を持つ人たちにとって良いことではないでしょう。家庭を大切にし、家族と過ごす時間がたっぷりあったほうが良いことに、異論はありません。ですが、それを単純に「少子化対策」としてしまうことには、問題があります。単純に、家族と一緒にいる時間が長ければ、それで子どもが多く生まれるのですか?

 以前、ニューヨークで数日間に及ぶ大停電がありました。その翌年、子どもの出生数が増えたというのは、事実のようです。電気のつかない家の中で、長い夜を過ごすことが、子作りに役に立ったという、笑い話のような出来事です。

 まさか安部首相の頭の中には、こんな事態が描かれているのではないでしょうね。次は、「少子化対策として、夜は停電にするのが望ましい」などと発言するのではないでしょうね。

 首相は、結局は経営者側の提案を後押ししているだけのこと。とってつけたような「賛成意見」も、お役人からの入れ知恵なのでは。自分できちんと考えることって、大切ですよ。

投稿者 tsukada : 2007年01月06日 20:01