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2007年02月06日

柳沢発言のもう一つの問題

 日本の少子化傾向は、世界でトップクラス。高齢化とあわせて、その動向は日本の将来を左右する一大事。

 ぜひ子どもの数を多くしたいということで、柳沢厚生労働大臣は「女性は子どもを産む機械」などを発言し、総スカンをくっています。その表現のお粗末さについては、世の女性を敵にまわしても仕方のないことでしょう。

 世間を騒がせているその発言ですが、言葉の不適切さだけが問題にされているのは、ちょっと違うのではないかと思っています。彼に同情するつもりはありませんが、内容にかかわりなく、形だけの「言葉狩り」になってしまっていないか、心配をしています。

 大臣の発言の問題の核心は別のところにあります。「結婚している女性がより多くの子どもを産めば、少子化社会は解消する」といった内容の発言をしているわけですが、その考え方こそ、実は最大の問題なのです。

 日本での出生数は、戦後すぐの1949年(昭和24年)に約270万人と最高で、この前後を第一次ベビーブームと言っています。約20年後の1973年(昭和48年)に約210万人になり、この前後が第二次ベビーブームになりました。その後はほぼ毎年減り続け、2005年(平成17年)には約106万人と過去最低になっています。

 合計特殊出生率(おおむね一人の女性が生涯に産む子どもの数)は1947年の4.32が最高で、一昨年(2005年)は1.25まで減少。そしてまだ減少傾向に歯止めがかかってはいません。

 ここまでの説明では、女性が産む子どもの数が減ったために出生数が減った、と単純に結論されそうです。そしてその原因に、女性の晩婚化、女性の社会進出(専業主婦の減少)などがよく語られているところです。

 でも、本当にそうなのか、良く見極める必要があります。次のグラフを見てください。

  <夫婦の完結出生児数(結婚持続期間15〜19年)>
20070206-1.jpg

 一定の年数がたった夫婦の間に生まれている子どもの数です。1970年代以降、ほとんど変わっていません。その数字も、夫婦=2人の男女に2人以上の子どもが生まれているわけですから、人口維持の観点からは、増えすぎず、減りすぎないという“理想の子ども数”だと言えます。

 結婚して、安定してくると、一定の子どもが生まれています。子どもをもたないという選択をする夫婦もいるでしょうが(それが悪いという意味ではありません)、その数がそれほど大勢ではないことも分かります。

 「女性の晩婚化」が生まれる子ども数を減らしているのではないか、とも言われていますが、そうでもないようです。(もしそうなら、夫婦の間に生まれる子ども数が減少してくるはずです。)

 ここまでお話をすればもう分かっていただけたかと思います。結婚しない「男女」が多くなっているのです。次のグラフにそれが如実に表れています。

  <男女・年齢階級(25〜39歳)別未婚率の推移>
20070206-2.jpg 

 左は男性、右は女性のもの。どちらも近年に未婚率が急上昇していることが分かります。そして、肝心なことは、その割合が男性の方が女性よりもはるかに高いという点です。

 日本は欧米と違って、未婚のまま子どもをつくる割合はとても少ないです。結婚しない男女が増えたわけですから、出生数が減少するのは当然のこと。そして、その“責任”はより男性にある、ということです。

 これが日本における少子化についての事実です。この数字は、すべて内閣府が発表しているものですし、「少子化社会白書」という役所の文書に掲載されているものです。

 こういったことから、少子化対策として必要なのは、安心して結婚できる環境を用意すること。それができていないのが、今の日本の社会の最大の問題です。20代後半から30代前半の雇用が安定しておらず、その世代の収入は他よりも(高齢者よりも)少ないことが、「結婚できない男女」を作っていることを指摘しておきます。(この数字についても、同じ「少子化社会白書」で紹介されています。)

 柳沢大臣の発言をもう一度思い出してください。女性がもう一人多く子どもを産めば、少子化は改善する、という内容です。その間違いに、もう気づいていただけたかと思います。

 すでに結婚している女性は、すでに十分に子どもを生み、育てています。それなのに、より多くの子どもをさらに生むとなれば、より長く家庭の中にいることを求められることになります。

 日本は男性中心の社会。男性は仕事を続けるのは当然だとする一方で、女性は結婚・出産・育児のために仕事をやめることが当たり前のようになっています。それが、日本の社会を大きくゆがめていることをしっかりと見つめなければ、少子化社会の問題は解決することはないでしょう。

 こういった資料を読み、それを分析し、今後の対策を考えていくのは、役人も政治家もそれなりにしているはず。それなのに、ああいった発言がでてくるのは、やっぱり分かっていないんだなと思ってしまいます。

 でも、もしかしたら、全部のことが分かっていたのかもしれません。それをきちんと説明するとしたら、女性だけに家庭や育児のことを押しつけている日本の社会を批判せざるをえなくなってしまうことも、見えているのかも。もちろん「女性は家庭に戻れ」などと言いかねない首相に、翻意を求めることなど、できないことも見えてしまっているのかもしれません。

 やっぱり日本の少子化問題は、根が深いです。

(注:グラフはいずれも「18年版少子化社会白書」より)

投稿者 tsukada : 2007年02月06日 18:35