2007年05月14日
報道
「麻疹大流行」について、マスコミも積極的に取り上げるようになってきました。今日の「報道ステーション」(テレビ朝日)でも、5分ほどですが、全学休講になった大学を例にとりながら、報道していました。
専門家も「ワクチン接種を!」と話し、古館さんやコメンテーターもワクチンの重要性をきちんと伝えていました。当たり前のようにも見える姿勢ですが、実は以前とずいぶん違ってきています。
これまで、予防接種のことが話題に上るのは副作用などの問題があったときが主でした。そこでは、ワクチンの必要性は語られず、不要なもの、あるいは有害なものとして問題視することが多かったです。
日本が世界の中で「予防接種後進国」だという話を昨日も書いていますが、そうなった理由の一つには、こういったマスコミのとらえ方も関係していたのではないか、という見方も私はしています。トラブルがあれば、それを問題にする・・それは当然のことですが、そこでの結論を単純に出してはいないでしょうか。
ワクチンは確かに副作用があります。もとのウイルスや細菌のもっている性質(発熱させたり、発疹をださせたり、髄膜炎をおこしたり・・)が残っている場合もありますし、それ以外のものもあります。軽いものから重篤なものまで、その程度もさまざまです。
もしワクチンに大きな副作用があるとしたら、そのワクチンを改良する必要があります。一時的に中止し、新しいワクチンが使えるようになるまで待つことも必要かもしれません。感染症の種類によっては、すでに流行することもなくなっていて、ワクチンの副作用の方が問題だという場合には、その予防接種を廃止することもあるでしょう。
しかし、予防接種そのものが全て有害であり、全面的に中止すべきだという考えを持ち出すのは安易すぎます。感染症は自然にかかった方がいいのだ、などという俗説を紹介することは、危険でもあります。
余談ですが、「ワクチン有害論」を唱える有名な小児科医は、この麻疹ですら、自然にかかった方がいいのだと以前から言っていました。とてもマスコミや一般市民に対して影響力の強い方なので、私たち「普通の小児科医」には怖い存在でした。この方は今でも自説を貫こうとしているのでしょうか。
こんなたとえ話をすることがあります。もし交通事故がおき、それが自動車の欠陥だったらどう対応するでしょう。自動車そものを全て廃止せよ、人間は歩くのが一番良く、物を運ぶのは馬や牛などの方がいい・・などという人は、まずいないでしょう。もちろん、その考え方も大切です。短い距離であれば歩く方が良いでしょう。不要不急の運送は、自動車からより環境に優しい物にかえていくべきです。でも、自動車を完全に否定することはありません。そこで求められるのは、その自動車の欠陥を直すことであり、さらにより安全な自動車の開発です。
ワクチンに副作用がおきて問題になったとき、必要なのはそのワクチンの改良です。予防接種そのものを否定することではありません。より安全なワクチンを作り、より安心して予防接種を続けることが何よりも大切なことです。
今回のマスコミ報道の中に、ワクチンがとても大切なものなのだということが、少しでも分かってもらえたのかな、と感じているところです。
投稿者 tsukada : 2007年05月14日 23:59