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2007年06月30日

潜在的需要

 昨日のお客さまは兵庫県から来られました。ほとんど日帰りの強行軍。ほんとうにご苦労様でした。

 県庁の少子化対策を担当されている方だそうです。先日に産経新聞の記事を見て、ぜひ見学したというお申し出でした。朝の受け入れから始まり、子どもたちの保育の様子、診察の風景など、わたぼうし病児保育室の全ても見てもらったといっていいかと思います。

 途中には市役所の担当課も訪問し、市の方との意見交換もされました。そこでもまたいろんなお話が出ていたようです。

 県として病児保育(病後児保育)を推進して行くにはどうすれば良いか、というのがメインテーマのようです。なかなか難しい課題です。

 国(厚生労働省)からは病後児保育事業の要綱などが出されていますが、実際に行う自治体の取り組みはそうとう“温度差”があります。積極的に行っているところもある一方で、将来的にも取り組むつもりのないところも。あるいは取り組みたくても予算やノウハウがなく、実行できないところもあるようです。

 実際に行う事業者(とくに病児保育の場合は小児科医や、小児科のある病院)のとらえ方も、千差万別です。少子化対策として「やむをえない」として取り組んでいるところもあります。残念ながら、いまだにその必要性を理解していただけず、あるいは「そういったものをすることは、労働環境充実の妨げになるので、行ってはいけない」とまで言うところもあります。

 そんな中でも、少しずつ病児保育(病後児保育)に取り組もうという自治体は小児科医(医療機関)が増えてきているのは確かです(その数はまだまだ少ないですが)。実際に行おうという段階で問題になるのは、そのハードルの高さです。

 経営的に成り立つことはなく、自治体の補助は必須です(現在行っているところも、その額が十分ではないとして問題にされています)。施設・設備の点でも、お金を別にしても、都会などではそれだけのスペースがなかなかとれないという問題もあります。そして、新たに保育士を雇用しなくてはいけません。医療機関と保育士という職種は、通常一緒に仕事をすることはないので、その点での“溝”は大きいかもしれません。

 県という立場からは、こういった諸条件の違いを考慮しながら、病児保育を積極的に行おうとする市町村や医療機関を積極的に後押しすることが求められます。実施までにいくつも存在しているハードルを低くしたり、なくしたりすることで、県内のどこに住んでいても、この福祉サービスを受けられるようにすることが、大きな目標になるでしょう。

 そんな意味では、お越しいただいて県庁マンの方にいろいろとアドバイスをしたかったのですが、残念ながら行政についての知恵が私にはありません。実際の様子を見てはもらいましたが、そこから「どこででも実際できるモデル」を作るのは、けっこう難しそうです。何しろ、当院のわたぼうし病児保育室は全国の中でも例外的な施設になりつつあるからです。

 急性期の病児を預かるために、事実上「定員」をなくし、求められれば必ずお預かりしています(誤解のないよう付け加えておきますが、児童福祉法に基づく「認定外保育施設」の基準はクリアーしていますので、厳格な意味での「定員」はあります)。予約不要(大半の病児は、急に発病しているわけですから、前日までに予約などできるはずがありません)。登園したあとの急病による「飛び込み」(途中入室)も拒みません。

 ここ6年間にのべ6,000名の子どもたちをお預かりしていますが、それ以外にお断りしたお子さんは一人もいません。そうすることで、親御さんからの信頼もいただき、子育て支援を通して、実際に親御さん(そしてその大半はお母さん方)の就労を力強く後押しすることができてきたものと思っています。

 昨日、県庁の方とお話しするなかで、私は「わたぼうし病児保育室は一つの社会実験を行っているのかもしれない」というお話をさせていただきました。病児保育の必要性については以前から考えられてきたわけですが、それがどれくらい強いものなのか、どれくらいまで高まっていくのか、その数量的な予測はまだ誰にも分かりません。

 私たちが始めた当初は利用数は非常に少なかったのですが、先に述べたような「使い勝っての良い病児保育室」を作ってくる中で、登録者数や利用者数は確実に増えてきています。その勢いは、私たちが想像をしていた以上のものがあります。どこかで頭打ちになるかもしれませんが、それがいつ、どの程度で訪れるか、全く見当が付きません。

 病児保育に対する需要(ニーズ)は、とてつもなく大きなものがあるというのは、今私たちがわたぼうし病児保育室の実践の中で実感していることです。潜在的な需要が、条件が整備されることでどんどんと顕在化してきているようです。

 日本全体を見れば、核家族の多い都内などではもっとニーズは高いかもしれません。地方の小都市で、一小児科開業医が、公的な支援のない中で取り組んでいる病児保育が、どれくらいの広がりにまで発展していくか。それはひとえに、親御さんたちの需要がほんとうにどれくらいあるかということによるのだと思います。

 わたぼうし病児保育室の様子を見て、もしかしたら「こんなのはなかなかできない」と感想を持たれたかもしれません。でも、同じことはできなくても、同じ方向を向いて仕事を進めることはできます。ぜひ兵庫県の中で、この病児保育事業が着実に進んでいくよう、知恵と予算を出してくださることを願っています。兵庫県民の親御さんにかわって、切にお願い申し上げます。

投稿者 tsukada : 2007年06月30日 21:57