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2007年08月28日

4本のナット

 昨日のこと、当院の目の前で自動車のタイヤがはずれる(!!)という信じられない事故がおきました。走行中に乗用車の左前タイヤが完全にはずれ、タイヤはブロック造りの花壇に乗り上げて止まり、自動車は急停車しました。

 幸い乗っていた女性の方にケガはなく、はずれたタイヤが人に当たったりするようなことはありませんでした。しかし、もし数メートルでもその場所がずれていれば、当院の駐車場にタイヤが飛び込んできて、患者さんなどに当たって一大事になるかもしれないところでした。あるいは、交通量の多いところで起きていれば、大きな交通事故になっていたかもしれません。

 思わず身震いするような事故ですが、問題はなぜタイヤが外れたのかということ。1本のタイヤは4組のボルトとナットで留められています。そのナットの全てが外れたわけですが、それらのナットの全てはタイヤ脱落位置の数十メートル前から転々と落ちていて、全て回収されました。ボルトには傷はなく、スルスルとナットが外れていたそうです。

 タイヤ脱落はそれほど珍しくはないのだと、自動車整備業の友人が教えてくれました。当地では冬用のタイヤと夏用のタイヤを交換しながら使います。年に2回は着脱するわけですが、それを素人が行うと締め付け力(トルク)が緩くて、走行中に脱落してしまうこともあります。それもだいたいは左側が多いのだそうです(左側タイヤの回転方向が、ネジの緩む方向と一致しているから。そのため大型車は、左側タイヤは左ネジを採用しています)。

 しかし、そのようなケースでは1本のナットが先にはずれ、その後次第に他のナットも外れていき、最後にタイヤが脱落する経過をとるので、やや時間がかかるようです。また、ボルトのねじ山も傷が付くことでしょう。一挙に4本がほぼ同時に外れてしまうという今回のトラブルは、異質のようです。

 実は事故を起こした自動車は、ディーラーから貸し出された“正規の”代車でした。素人がタイヤを取り替えて締め付けが甘かったなどということとは全く違います。プロの整備士が、専用の電動ドリルを使ってナットを取り付けたものです。

 ではいったい何がおきたのでしょう。今日この会社に問い合わせてみましたが「調査中」とのこと。直接の関係者ではないから事実を明らかにしないという姿勢かもしれません。それでは、私が推理してみましょう。

 全てのナットが同時に外れたということは、4本とも「同じ程度に」緩く取り付けられていた、ということになります。一挙に全てが同時に外れたとすれば、ボルトのねじ山が無傷だったことも説明できます。問題は、どうしてそんなことがおきたかということ。

 タイヤを取り付けるとき、4本のナットを仮止めします。それをせずに、いきなり1本のナットを最大のトルクで締め付けてしまうと、タイヤが曲がって装着されてしまいます。タイヤはそうとう重いので、ゆがんでついてしまうのです。その後、電動ドリルを使って十分なトルクでネットを締めます。その順番も決まっていて、対向するナットを順に締めていきます(例えば上のあとは下、右をしたら次は左)。

 この手順を途中まで守っていたとしたら、今回の事故は十分説明がつくように思います。つまり、仮止めはちゃんとしたけれど、そのあとの本締めをしなかった、ということです。

 以上はあくまでも私の推測です。もしそうだとしたら、明らかに人為ミス。大きな事故には至らなかったけれど、あってはならないこと。それをプロたる自動車整備士が行い、正規の代車として一般の方に貸し出しました。

 事実がどうであったか、この会社がどれくらい丁寧に対処していくか、推移を見守りたいと思います。トラブルはすでに起きてしまいました。その事実をきちんと調べ、今後同様なことが起きないようにするには何が大切で、何をすべきか。それをしっかりと明らかにしてほしいものです。

 それができなければ、いずれまた同じ事故を起こしてしまうかもしれません。あるいは、もっと重大な事故に至るかもしれません。後悔しないように、今すべきことをしっかりとしておきましょう。

投稿者 tsukada : 2007年08月28日 21:17