« これからも補助なし | メイン | 明日は・・ »

2008年02月06日

キャンセルは悪?

20080206.jpg

 これは「新潟日報」という地方紙の記事です(昨日付け、家庭欄)。県内で行われている病児保育(ここでは「病後児保育」を含めます)の運営にあたって、問題点が浮かび上がっている、と指摘しています。

 その内容についても「おや?」と違和感を感じるのですが、その前に、同じ活動をしている私たちのわたぼうし病児保育室が取材対象になっていなかったことを不思議に感じました。県内で最も大きな規模で病児保育を行っている、それなりの実績がある施設です。

 他と違う点は、自治体からの公的援助を受けていないこと。その点で「公的な存在」ではないということなのでしょうか。

 でもヘンですよ。例えば医療に関する調査をするとき、公的な医療機関だけでそれを行うことはないでしょう。民間の診療所(いわゆる開業医)や、民間の病院も当然対象にするはずです。

 実はわたぼうし病児保育室は、別の意味合いで公的な性格を持つとして認定されている施設です。児童福祉法では保育所の施設基準を定めています(定員が60名以上の認可保育所)が、定員がそれより少ない保育施設に対しても厚生労働省は同じ基準を満たすよう求めています。それが「認定外保育施設」です。わたぼうし病児保育室も県知事からその認証を受けていますし、そのために利用料については消費税を免除されています。

 そんなわたぼうし病児保育室にもぜひ取材に来てほしかった、というのが私の率直な感想です。それでなくても行政から冷たくされているのですから。次からはぜひ一人前に扱ってくださいね。

 記事の内容についても、私たちが病児保育に取り組んでいる中で感じているものとは違うようです。タイトルにあるように、病児保育をめぐって、利用者のマナーが悪いために迷惑している、という内容です。とくに予約のキャンセルが問題にされています。その数は少なくなく、運営に支障を来しているというのです。

 確かにキャンセルはあります。わたぼうし病児保育室では年間2,000人ほどの利用がありますが、予約のキャンセルは毎年100名前後でています。率にして約5%。前日に予約している利用者は半数ほどですので、予約者の中では10%くらいが実際には利用していないことになります。確かに少ない数ではないでしょう。

 これがホテルなら、当日の予約キャンセルは代金の全額支払いを求められるかもしれませんが、病児保育ではそれをしているところはないでしょう。もちろんわたぼうし病児保育室でもしていません。それが経営の圧迫要因になる、などと了見の狭い小児科医はきっといないと思います。

 むしろキャンセルは大いに歓迎!というのが私たちの考えです。軽い病気なら、翌日に治っていることもあるかもしれません。お子さんの健康状態が良くなったのですから、こんな良いことはありません。

 お子さんは病気のために登園や登校ができないけれど、親御さんが仕事を休めるようになったかもしれません。具合の悪いお子さんに親御さんがいっしょについていてあげられるのですから、ちっとも悪いことではありません。あるいは、遠くにいるおじいちゃんやおばあちゃんが駆けつけて来てくれたのかもしれません。

 問題があるとしたら、それほど病気が良くなっていないのに、無理に園や学校に連れて行ってしまった、という場合でしょう。あまりそこで無理をすると、また病気が悪くなってしまうかもしれません。親御さんに対しては、私はよく「丸一日の余裕」が必要だとお話ししています。しっかり良くなってから集団生活に戻るようにしておかないと、またぶり返したり、こじれさせることをよく経験しているからです。

 そんな時こそ病児保育を遠慮なく使ってください、とも伝えています。朝になったら具合が良くなったかのように見えても、必ずしも治ったとは言えないからです。

 子どもは急に病気になるもの。事前の予約をしなくては病児保育を利用できないとするならば、使い勝手はとても悪いものになるでしょう。そして、具合が良くなったり、家庭で看てあげられるようになったならば、キャンセルをためらう必要はありません。

 記事の見出しにある「連絡せずキャンセル」は、確かに感心しません。困ります。でも、今わたぼうし病児保育室では、そのようなことは皆無といっていい状態です。予約者の1割ほどのキャンセルが出ますが、親御さんはちゃんと連絡をしてくれます。

 実は私たちも数年前から同様なことを経験していました。予約してあったお子さんを待っていても、なかなか現れないことがあったのです。でも、そのままにしておくことはしませんでした。保育士に指示して、親御さんと連絡をとらせ、利用の有無を確認するとともに、何よりもお子さんの様子がどうか、お聞きするようにしました。それを繰り返すうち、最近は無連絡のキャンセルはなくなったという次第です。

 先にお話ししたように、キャンセルをとがめるつもりはありません。ほとんどの場合はキャンセルは良いことなのですから。でも、お子さんや親御さんがどうされているか、それが心配ですし、その情報を的確に把握することも、私たちの仕事です。

 例えば、小学校である子どもが連絡のないままに登校してこなかったらどうするでしょうか? そのままにしておくことはないでしょう。やはり家庭に連絡をとったりすることは当然しています。

 「明日、子どもを預かってください」と頼まれていながら、そのお子さんが来ない時、そのままにしておくこともまた問題なのだと思います。家から来る途中で不測の出来事に巻き込まれたのかもしれません。もしもの時に、連絡がないことをきっかけに、早くその事態に対処できる可能性もあります。

 病児保育についての民間保険があり、わたぼうし病児保育室も利用しています。お預かりしているお子さんがケガをしてしまった時などに補償してくれるものです。この保険は、家を出てから保育室に来るまでと、お子さんを迎えに来て、家に帰り着くまでもその補償範囲にしています。

 そんな意味でも、「連絡せずにキャンセル」する親御さんも問題ですが、それを「連絡せず」にそのままにしておく保育室側もまた問題だといえます。また私たちの経験から、そんなケースがあっても親御さんに丁寧に対応していくと、親御さんとの関係も次第に密になり、お互いの信頼も生まれてくるものなのです。

 見出しにもう一つ、「軽症で『様子見』予約」とありますが、これについても直ちに問題視することはできないと思います。お子さんの具合が悪いとき、翌日どんなふうになっているかは、なかなか分かりません。子どもの病気は急に変化するものです。急に良くなることもあれば、急に悪くなることもある。

 正直に言って、診察している小児科医だって、目の前のお子さんの病状が完全に把握でき、その後の経過を完全に予測できるわけではありません。私の技量が低いのかもしれませんが、少なくとも私はそうです。医療については素人(しろうと)である親御さんに、その判断を求めるのは酷なのではないかと思います。

 記事の見出しに「受け入れ断る場合も」とありますが、これはキャンセルが出たとき、定員に余裕ができているのに、一方で利用できずに断っている事実があり、矛盾した対応になってしまう、という意味だと思います。でもそれは理論的ではありません。何もキャンセルが出たから別のお子さんの予約を断ったのではありません。予約数が定員を超えたから、先に断っていたわけです。キャンセルの有無にかかわらず、予約を受け付けることができなかった、というだけのことです。

 何が問題なのかといえば「定員」です。その地域で病児保育を行うために必要な規模が確保されていないのです。つまり、それは施設側の問題。公的な運営をしているのであれば、行政の問題ともいえます。けっして利用者のマナーに帰する問題ではありません。

 ちなみにわたぼうし病児保育室はこれまで利用希望をお断りしたことはありません。いつ、どんな形で申し込まれても、全て受け入れることを原則としていますし、それを完全に実行できています。

 わたぼうし病児保育室の「定員」は今は8名。平均の利用者数は今年度は一日あたり8〜9名程度になっていますが、しかし最高で23人という日もありました。「定員」はどうなっているの?と疑問をもたれることでしょう。

 病児保育では通常は子ども2人に対して保育士や看護士1人を配置するのが通例です。厚生労働省は市町村がこの事業を行っていると補助を出すのですが、そのときの基準としているものです。法的な根拠のある数字ではありません。

 わたぼうし病児保育室では保育士が常勤4名、パート3名で運営していますが、そこに医院から看護師がいつでも応援に入れる体制になっています(メディカルチェックは常時行っています)。正確な数はでませんが、病児保育としては「定員」が10数名ということになります。

 一方で児童福祉法に定める職員の配置基準から計算すると、今の保育士の体制で数十人の子どもをお預かりすることができます。この数字がアバウトになるのは、子どもの年齢によって保育士の必要数が変わってくるからです。ゼロ歳では「3:1」ですので、ゼロ歳児だけの利用だとすれば定員は20名ほど(パート職員の就労時間数によって変わってきます)。4歳以上は「30:1」ですので、4歳児以上の利用とすると定員は何と200人ほどになります!

 あからじめ保育士を余裕をもって確保し、施設設備も十分に整備しておくこと、そして毎日変わる病児保育のニーズにフレキシブルに対応できるよう柔軟な運営を確立しておけば、この記事で問題にされた「受け入れを断る場合」はおきなくてすむのではないか、と思います。

 私たちが公的な援助をもらわず(もらえず?)に、でもここまでの運営ができています。自治体から補助をいただいている施設に、どうしてそれができないのでしょう。よ〜く考えてみて下さい。

投稿者 tsukada : 2008年02月06日 19:25