2008年03月13日
「5時間待って5分診療」に?
4月から導入される「5分間ルール」で、小児科は大きな影響を受けることを一昨日の「院長ブログ」でお話ししました。これを決めた人たちには、小児科外来の様子も、小児科医のことも、そして子どもたちの医療のことも全く念頭になかったのでしょう。それが一番残念ですし、悔しいことです。
「医療機関の機能分担」という言葉があります。病院は重い患者さんを主に診るところであり、入院治療が中心。診療所(開業医など)は比較的軽症の患者さんを診て、外来診療は診療所が主にその役割を担うというものです。
もっともなことです。すでに病院は外来診療にあまり力を入れない方向で進んできています。その分、診療所は今まで以上に外来患者さんを多くみるようになってきました。少なくとも小児科ではそうです。
当地(新潟県上越市)は人口が約23万人。その中で小児科がいて子どもの入院ができる病院は2か所だけ。小児科開業医もけっして多くなく、全部で6軒です。おのずと少ない小児科開業医のところに、より多くの小児患者が集中する傾向になっています。
全国から「医師不足」の声が聞こえてきます。そのために「医療崩壊」に至ってしまうところも。小児科医の不足も、また深刻です。
病院勤務医が過酷な勤務を強いられているから、開業医がその一部を分担せよ、というのが厚生労働省の考え方です。世論もマスコミをもそれを支持しているようです。
開業医の全てではないかもしれませんが、少なくとも私たち小児科医はすでにその負担が大きなものになっています。多くの患者さんの診療を手際よく行うためには、必然的に一人あたりの診察時間は短くなります。
「3分診療」という表現は粗雑な診察をイメージしたものですが、実は小児科外来では3分かけるもぜいたくな話なのです。半日で100人近く、一日で百数十人の患者さんを診るのも普通のこと。平均すると1時間に30人=一人あたり2分の診察時間。もしかしたらそれよりも短い時間で診察しなくてはいけないときもあります。
時間の目安だけで「5分以上かけなければ十分な診察とはみなさない」とする新たなルールは、そんな小児科の特性を無視したものです。短時間で診察を行っているのは確かだけれど、そうせざるをえないのは、小児科を初めとした医師の総数が少ない現状があるから。その責任は、けっして私たち一人一人の小児医にあるわけではありません。
本気で「5分以上の診察」を求めるのであれば、まずすべきことは医師数の大幅な増員であり、医療のあり方の根本的な見直しでしょう。かつて“医師過剰時代”を迎えるからという理由で、医学部定員の削減を行ってきましたが、その政策が誤りであったことを認めることすらできない厚生労働省ですから、しっかりと日本の医療政策の舵取りをするなど、とても無理な注文なのでしょうが。
もし「5分ルール」が開業医で徹底したら・・必然的に開業医が診る患者数は少なくなります。その分、病院の外来が混雑することにはならないでしょうか。勤務医の負担軽減をねらっているというわりには、その逆になりかねない方策です。
また「3時間待って3分診療」と悪評のある外来診療ですが、時間を切り詰めて診察していても多くの時間お待ちいただいている現状があります(当院では予約制を併用しているので、それほど多くの待ち時間はありませんが)。5分以上診察することになれば、待ち時間はさらに延びてしまいます。「5時間待って5分診療」という事態にもなりかねません。それでいいのですか?
考えれば考えるほど、私たち小児科医にとっても、患者さんにとっても「5分間ルール」は弊害が大きいものです。あと半月ほどで実施です。とても憂慮しています。
投稿者 tsukada : 2008年03月13日 23:59