2008年07月17日
保冷庫の秘密
保冷庫には冷蔵で保存しなくてはいけない医薬品が入っています。家庭用に冷蔵庫を使うこともあるようなのですが、医薬品の中には温度管理を厳しくしなくてはいけないものもあります。
その代表がワクチンです。大きく2種類(生ワクチンと不活化ワクチン)がありますが、一方は絶対に凍らせてはいけないし、もう一方は一定の温度以上になるとダメになってしまいます。けっこう温度管理に気を使うのです。
家庭用の冷蔵庫を使うこともあるようなのですが、内部の温度がきちんと一定に保たれているか、不安があります。食品であればそれほど問題にはならないのでしょうが、けっこう凍ったり、逆に温度が高くなっている場合があるというのです。
写真で見てもらったような「保冷庫」は、設定した温度を維持するように作られています。医薬品を入れておくのは、やはり専用の設備が必要。価格はずいぶんと高いですが、医薬品の安全にはかえられません。
実は当院には苦い経験があります。開院当初のこと。医薬品用の保冷庫にワクチンを入れて保管しておいたのですが・・ある時、中の温度が異常に上昇してしまったことがありました。原因は単純。コンセントがいつのまにか抜けていたのでした。
電気の通っていない保冷庫は、ただの箱。数時間のうちに室温と同じまで上昇していました。その結果、中に入れておいたワクチンをすべて廃棄せざるをえない事態に。数十万円を捨ててしまうことになりました。
ショックでした。お金もことももちろんダメージは大きかったのですが、温度管理をきちんとしなくてはいけないと思って高額な保冷庫を購入したというのに、そのコンセプトも否定されたような気持ちになってしまったものでした。
初代の保冷庫には温度のセンサーが付いていなかったので、アラームなどのついた高機能の保冷庫を2台目として購入。しかしそれでも安心できませんでした。トラブルの発生が、職員の勤務時間内であればすぐに対応できるでしょうが、それ以外の時間帯では何もできません。夜間や休日など、院内が不在のときでも対応できるシステムをきちんと作らなくては。
今から5年ほど前のこと。医院の増築をした結果、消防法で定める火災報知器の設置義務が生じました。それまでも簡易なシステムはつけてあったのですが、それを全て一新。1週間の工事期間と、数百万円の費用で完璧なシステムを構築しました。
火災時の警報だけではなく、泥棒などを防犯する機能も付加。さらに、保冷庫についても異常がある場合には警報が鳴るようにセットしてもらいました。内部の温度が一定以下または一定以上になった時や、保冷庫の電源が切れたとき(停電時など)には、私が医院に不在でも私の携帯電話に自動で緊急連絡が入るようになっています。
先日のおきた“2号さん”の異常は、冷媒の配管に穴があくなどして冷媒が漏れていたことによっておきました。内部に大量に霜がつき、自動で霜取り運転を始めたあと、庫内温度が急上昇したというものです。
このときは診療時間中だったのですぐに職員が対応しました(ふだんはあまりつかっていない“1号さん”に医薬品類を移しました)。夜間であれば、そしてもし「火災報知器」に保冷庫のアラーム機能を付けておかなければ、保管してあったワクチン類の被害は免れなかったでしょう。その額は・・おそらく数百万円にも上ったのでは。身の毛がよだつような話です。
ということで、当院の保冷庫には秘密の機能が付いています(「院長ブログ」に書いたので、もう秘密ではなくなったけれど)。安全・安心できる医療を提供するために、水面下でいっしょうけんめい努力している様子も、ちょっと分かってもらえましたでしょうか。
投稿者 tsukada : 2008年07月17日 18:48