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2010年01月23日
不良在庫
それは突然の知らせでした。「新型インフルエンザ予防接種を、健康成人にも行います」との発表。新潟県では今週水曜(20日)からの実施です。
国産ワクチンが大量に余り始めているようです。県内には30万回分(成人)ものワクチンが「不良在庫」になっているのだとか。
わずか1か月前には、考えられない事態がおきています。年齢などによって細かく「優先接種対象者」が決められ、さらに実際に予防接種を行うのは都道府県がGOサインを出したあとから。
ワクチンそのものも完全に「割り当て制」でした。医療機関は都道府県の指示に従い、都道府県は国の指示に従ってワクチンの納品が決まります。それもなくなりました。不足分は問屋からも買っていいと。
どの都道府県でも同様な扱いになっているようです。わずか1か月で、ずいぶんと様変わりしたものです。
昨年の、奪い合うような騒動がウソのよう。こんなにもワクチンが余ってしまうなんて、当時は想像もしていませんでした。でも国のお役人達はどうだったのでしょう。やっぱり予想していなかったのでしょうか。
新型インフルエンザワクチンは今でも生産が続いています。一挙に、大量に作ることができないので、一定の数量をコンスタントに作ります。だから、当初はワクチンが不足していた・・。今は生産が順調に進み、ワクチン接種を受ける人たちが少なくなったので、余るようになってきた・・。
そんな説明を聞くと納得してしまいそう。でもおかしいです。もし生産がもっと早く始まるか、あるいは一度に作れるワクチンの量が多ければ、こんな事態にはなりませんでした。
日本でインフルエンザワクチンを製造する業者は限られています。かつては(今から数十年前まで)もっと多くの業者が製造していました。学童などの集団接種を行っていたころです。しかしインフルエンザ予防接種が個別接種になり、法律で定める接種から希望者だけが受ける任意接種になったあと、ワクチンの使用量が激減。当然生産量も減り、いくつかの業者は生産しなくなりました。
数年前から新型インフルエンザによるパンデミック(世界的大流行)にどう対応すべきか、大きな課題になっていました。ワクチンはその中枢に位置づけられていたわけですから、生産能力を増大すべく、手を打っていなくてはいけなかったはず。
実際には業者まかせにしていたようです。昨年春、新型インフルエンザが発生してから、慌てて製造量を増やそうとしたけれど、十分な効果がなかった、というのが、今回のワクチンをめぐる混乱の真相です。
思いだす言葉があります。昨年夏に沖縄で新型インフルエンザが流行したときに、当時の厚労大臣・桝添さんが、どうして流行が始まったのかと記者に問われて発した言葉です・・「国民に慢心があったのでは」。マスクやうがいといった個人予防をしっかりしていなかったから流行が始まったのだと言いたいようです。
沖縄で流行した原因は分かりません。マスクなど、みんなが予防に努めていても流行する時には流行します。それがインフルエンザです。医学的なことに踏み込んで発言するのは、慎重にしてほしいと思ったものでした。
そして、「慢心」していたのはむしろ国ではないかと。ワクチンについては数年前から議論になり、時間的な余裕はあったわけですから、その間に製造ラインを増加するなどして製造能力を高めておくことは可能だったはず。それをせずにいたのは、まぎれもなく国の怠慢です。私にはそう思えました。
今、ワクチン騒動が一段落し、むしろ余るような事態になってきました。国産ワクチンですらそうです。
9000万回分の輸入ワクチンは、1本も使われることなく捨てられてしまうかも。異常な事態です。
投稿者 tsukada : 2010年01月23日 14:31