2010年10月18日
おたふくかぜワクチンは忘れられている?
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の流行が拡大しています。夏場は少しずつの発生でしたが、秋になり患者数が増加中。
当院に併設のわたぼうし病児保育室では、今日はお預かりした8人のお子さんのうち6人がおたふくかぜ。やはり流行が拡がっていることを実感します。
おたふくかぜはウイルスによる感染症(ムンプスウイルス)。潜伏期は2〜3週間。飛沫感染(唾液中にウイルスが大量にでてきます)。主に耳下腺が腫れ、痛みと熱を伴います(最初に数日)。腫れは1週間ほど続き、腫れがなくなるまで登園・登校が停止になります。
合併症がしばしば問題になります。中枢神経(脳)の中に入り込みやすい性質をもっていて、髄膜炎は頻繁におきてきます(多くは軽症で、経過を見るだけで治癒しますが)。難聴もおきます。完全に聴力を失うこともあります(片側だけにおきるのは幸いです)。
思春期以降で罹患すると、男性では副睾丸炎、女性では卵巣炎をおこすことがあります(男性は30%、女性は7%の頻度)。精子や卵子を作る働きがなくなってしまいます。不妊の原因になりうるのですが、通常は片側だけにおきるので、実際には不妊になることは少ないようです。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)はけっして軽い感染症ではありません。できればかからせたくない。でも・・先進国の中でおたふくが流行して困っているのは日本くらい。アメリカ、カナダ、ヨーロッパ諸国などでは、おたふくかぜの発生はほとんどなくなっています。
その違いは予防接種です。ワクチンでおたふくかぜを予防できます。先進国のほとんどはすべての子どもたちにおたふくワクチンを接種しています。でも日本は・・あまり受けていません。
それは日本では「任意接種」という扱いだからです。希望される方だけが、自分で全額を支払ってワクチンを受けます。もし何かトラブルがあっても、国には関係がなく、個人と医療機関との間で対応することになります(医薬品としてのワクチンに問題があれば製薬メーカーも関係してきます)。
おたふくかぜワクチンはそうとう長い歴史があり、有効性の高さとともに副作用の少なさは証明されています。それなのにまだ法律に定める予防接種としては扱われていません。やはり日本はワクチン後進国といわざるをえません。
このところ新しいワクチンが話題になっています。子宮頸がんワクチンの公費助成の話も進んでいるようです。小児用のヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンもいっしょに助成することになりそうだと、マスコミでは報道されています。
それはそれで大切なことですが、すでに長く使われているおたふくかぜワクチンは、どうして忘れられているのでしょう。水ぼうそう(水痘)ワクチンも同じ扱いです。
日本の予防接種のあり方を、一からすべて見直し、作り直す必要があります。子どもたちや国民のために何が必要なのか、きちんと議論を組み立てていきましょう。
投稿者 tsukada : 2010年10月18日 23:59