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2013年09月16日

医薬分業私論

 先日の地元紙「新潟日報」への投稿について、少し説明を加えておきます。新潟大学の附属病院が、その敷地内に調剤薬局を開業させようといていることについて、疑問を指摘する内容です。

 記事は先月28日付け「新潟日報」に掲載されました。その後も読売新聞の新潟県版でも同様の内容で報道されています。

 いずれの記事でも、すでに薬剤師会などから「医薬分業の趣旨に背く」との意見が出されています。医薬分業では、医療機関と調剤薬局が「独立」していることが求められます。人、組織、お金、建物や敷地など、一体と見なされるようなことはしていけません。

 今回は、大学の敷地内に大学が施設を作り、それを別団体に貸し出し、そこに調剤薬局を招きいれるkとにしたのだそうです。

 大学側は、大学が直接敷地を貸すのではないので関係ないし、一度公道に出てから薬局に入るようにするので問題ないとしています。

 その程度のことでは「独立」していることにはならないから、認められるべきではない、というのが薬剤師会などの主張です。私もそう思います。

 でも私が「反応」したのは別の理由から。それは大学側が、患者さんの利便性が良くなるから、と説明していることに、それは違うよ、と思ったからです。

 患者さんにとってもっとも利便性が良いのは「院内処方」です。病院や医院の待合室で待っていれば、会計をし、さらに薬ももらって帰れます。医師が通常の診療で使う薬は院内薬局に在庫しているので、患者さんをお待たせすることもあまりないでしょう。

 病医院を受診するわけですから、健康な人ではありません。移動することにも困難な方々が少なくないことは想像に難くありません。子どもたちや高齢者はその代表でしょう。

 雨や風など、天候の悪い時の移動は健康な人にとっても大変です。まして当地は雪国。降雪時の困難さは言うまでもないでしょう。

 そんな中にあっても医薬分業を選ぶのは、やはり調剤薬局が独立していたほうが良いから。医師の処方をチェックしたり、複数の医療機関を受診した時に「かかりつけ薬局」として処方の整理をしたりすることが期待できるから。

 でもそれは建前なのでしょう。多くの調剤薬局は「門前薬局」です。医療機関の玄関前に開業し、そこから出される処方せんだけを元に調剤しています。地域の「かかりつけ薬局」ではありません。

 中には調剤薬局が中心にいて、その周りに医療機関が開業するというやり方もあります。なんだかあべこべなんじゃないかと思ってしまうのですが。

 日本では歴史的には院内処方が主でした。「医者にかかる」ということと、「薬をもらう」ことがほとんど同義語であるように。

 一方で、欧米では薬剤師の仕事は独立していて、医薬分業が当たり前。日本とは違います。

 政府は、日本でも医薬分業を推進しようとして政策を作ってきました。それは医薬分業をしたほうが、医療機関にとっても高点数になる(収入アップ)という仕組み作りです。もちろん調剤薬局の診療報酬も高めに維持されています。

 院内処方の診療報酬は格段に低く設定されています。それにもかかわらず、当院が院内処方を選択した(医薬分業を止めた)のは、患者さんの利便性を考えたからこそです。

 だから思うのです。利便性を言うなら、医薬分業をやめましょう、と。経営的な困難さがあるけれど、院内処方の方が患者さんに喜ばれるのですから。

 医薬分業を選びながら、患者さんの利便性をよくしたいというのは、ちょっと違うんじゃないかな。

 そんな思いから、あの投稿を書き上げました。形の上では大学病院の方針を批判する内容ですが、見方によっては医薬分業そのものを批判するように読めるので、薬剤師会の人たちには評判が悪いかも。

 まあ仕方ありません。反論があればいつでもどうぞ。

 もっとも、私のような一開業医の投稿に、大学も薬剤師会も反応することはないでしょうね。ほんのつぶやきくらいにしか思っていないでしょうから。

投稿者 tsukada : 2013年09月16日 19:01